推しの誕生日で号泣した話

 1年前の5月、思い返してみるとコロナ禍における最初の緊急事態宣言で、多くの店が閉まり、不要不急の外出が認められず、文字通り町から人が消えた。私自身も仕事が週の大半在宅勤務となり、家族を含め実際に誰かに会うという機会がほとんど無かったように思う。1日掃除以外何もやることはなく、テレビをつけてもコロナの感染者の事を伝えるニュース番組か、過去のテレビドラマやバラエティ番組の再放送ばかりで、一人この先ずっとこのままなのだろうか...」と漠然とした不安を感じずにはいられなかった。

 そんな状況下において、Kis-My-Ft2というアイドルの存在は私にとって、ものすごく大きな存在だった。彼らが毎日更新してくれるブログ、リモートで出演していたテレビ番組やラジオ番組などに、当時の私が一体どれだけ救われたことだろうか。

 それでも、2020年に開催が予定されていたライブが全て中止になった時は、「歌って踊る彼らにこのまま一生会えないのではないだろうか?いや、それどころか7人全員そろった彼らを画面越しで見ることさえ、この先ないのではないのではないか...」と思えて不安で不安で仕方がなかった。

 そんな緊急事態宣言下にやってきたのがメンバーである横尾渉さんの34歳の誕生日だった。当時キスマイを好きになって2年目。横尾さんを、キスマイを応援したくてTwitterを始めて最初の誕生日だった。

 少し話を逸らす。

 当時、横尾担となって1年僅かの自分が横尾さんに抱いていた、ひじょーに勝手な印象がある。推している人をこんなこと言うのはどうかと思うけれど、横尾渉というアイドルは万人から好かれるかどうか、と言われたら決してそうではないと思う。

まず、横尾さんは残念ながら、歌やパフォーマンスがお世辞にも素晴らしいとは言えない。(ただし私は横尾さんのまっすぐな歌声が大好きだし、横尾さんの手の動き、ターンの美しさは別格だと思っています。)ビジュアルも、「任侠映画に出てきそう」とか、「お饅頭みたい」とか言われることがあるし、いわゆるアイドルスマイルが得意ではないから、「怖い」「とっつきにくい」と思われてしまうのかもしれない。グループの中の立ち位置は、どちらかというと後列の端っこにいることが多くて、テレビに出てもコメントを何もしないで終わったり、かと思えばなぜかキレキャラ担当になって毒舌をはいていたりするから、勘違いされることが多い。

30年近く生きてきて、人生で初めてと言っていいくらいにアイドルに深くはまり、Twitterという彼らに関する情報収集やメディアでの活躍に関する感想や感動を他の誰かと分かち合うことのできる素晴らしい手段があることを知った。一方で、Twitterのというのはこちらが知りたくも聴きたくもなかった横尾さんに関する感想や言葉を目にしてしまうこともある。悲しいことに。

 担当として、これはとっても、とっても悔しいのだけれど、横尾さんは、悪から人々を守るスーパーヒーロータイプでも、学校一秀才のイケメンタイプでも、甘い言葉をかけてくれる優しい王子様タイプでもない。どちらかというと横尾さんは、いわゆる王道のキラキラスーパージャニーズアイドルとは全くもって違う路線をいく。わかりやすいか、わかりにくいかで言えば、「わかりにくい」アイドルだろう。理解されにくいアイドルだろう。それはわかる。でも、私は見たのだ。ある旅番組で横尾さんが箱根を訪れた時、とある施設で机から飛び出た椅子を、さり気なく元に戻す横尾さんを。私は見た。歌番組で後列にいる後輩がテレビに映ることができる様に、そっとかがむ横尾渉を。私は見た。コンサートのMCで、何も言わずにメンバーのために飲み物を持ってきて、また回収し、何も言わず片づける横尾渉の姿を。私は知っている。横尾さんが飼っているペットが年老いても自分で介護できるようにと勉強してペット介護士の資格をとったことを。私は知った。横尾さんがライブ中に他のメンバーがローラーで怪我しないように、ステージや通路に落ちているゴミをさりげなく拾うということを。そして、これはあまりにも有名すぎるエピソードなのだが、その昔、キスマイとしてデビューする前に現メンバーの藤ヶ谷くんがドラマか何かの収録で一人だけ振り付けを教わることができなかった時に横尾さんは藤ヶ谷くんがライバルであるにも関わらず、その日に教わったダンスの振り付けを毎日教えていたという話がある。私はこのエピソードが大好きで。このエピソードを知り、横尾担になったといっても過言ではない。

  なんというか、横尾渉というアイドルは、万人に伝わりやすく、ステージの上やテレビで優秀なアイドルであるというよりは、その裏で、下手すれば多くの人に見過ごされてしまいそうなところで、めちゃくちゃ男前な人間なのだ。でも、そういうエピソードもメンバーの口から語られたり、ファンの方々の目撃情報でしか知ることができないし、横尾さんが横尾さん自身のいいところを語ることは滅多にない。自分で自分のことを語らない、ちょっと勘違いされがちな、ものすごーく不器用な横尾さんに幸あれ...と毎日思っているのだが、2020年当時、まだ横尾担歴1年の自分にはどこか、横尾担以外から、横尾さんが認められていないような、何ともいえないもどかしい思いを抱いていた。

  話は戻って2020年5月15日(金)。

その日は久しぶりの出勤で疲れていたけれど、横尾渉の誕生日の前日。お正月でいう大晦日、クリスマスでいうクリスマスイブだ。何が何でも5月16日の0:00までは起きて、Twitterで「横尾さんおめでとう」メッセージを送りたいと思っていた。Twitter上では横尾担のみなさんが明日の横尾さんのBirthdayをどうお祝いするか呟いていた。ケーキを予約したとか、マグロのお寿司を食べるとか、本人不在の誕生日会を開くとか。これがジャニオタの文化かぁ...と一人感心していた。それまでの自分なら「本人不在の誕生日会???」と理解できなかったかもしれないけれど緊急事態宣言で楽しいこともやることもないに等しかった1年前、「私も近所のケーキ屋行って横尾さんの誕生日を祝おう、ついでにマグロのお寿司も買って本人不在の誕生日パーティーを開いてみるか」という気持ちになっていた。そうこうしている内に2020年5月16日0時00分が近づいていた。眠くて眠くてベッドで横になりながらTwitterをぼんやり眺めていたら0時00分になった。その瞬間、TLが賑わいだした。一つ、また一つ「横尾さんお誕生日おめでとう!」「横尾さん34歳おめでとう!いつもありがとう!」といったツイートが流れてきた。それだけじゃなかった。横尾さんの似顔絵やイラスト、誕生日を祝う手作りの動画、手作りケーキの数々。横尾担だけでなく、他のメンバーのファンの方々も一斉に横尾さんの誕生日を祝っていた。次々と流れてくる横尾渉の34歳の誕生日を祝う様々なメッセージに「横尾さんが愛されている...。横尾さんってこんなにたくさんの人から愛されている人なんだ。自分が大好きな人が他の多くの人から愛されるってこんなに素晴らしいことなんだ...」と思うと何故か急に泣けてきてしまった。推しているアイドルの誕生日ってこんなに素晴らしいんだ、こんなに嬉しいんだと、30年近く生きてきて初めて知ることができた。そんな夜だった。

 これだけで終わらない。ジャニーズのアイドルのファンクラブに入ると、メンバーそれぞれの誕生日を祝う、本人たちによるメッセージ動画が当日の0:00に配信される。コロナの緊急事態宣言下でメンバー同士といえども、7人集まることが容易でないのにどんなメッセージ動画が送られてくるのだろうかと思っていたら、6人それぞれが個別に横尾さんへ向けたメッセージを送るというものだった。

・「よこおわたる」であいうえお作文をしながらまるで父親かの様に優しいメッセージを送る北山くん。

・「今度さしでご飯行こう」と言って、横尾さんへHappy Birthdayの歌を唄ってくれた千賀くん。

・「今度ゲームしようね」といつもの優しい笑顔で言ってくれた宮田くん。

・飄々としてるけど「わた」と横尾さんを呼んでくれたスーパーエース玉森くん。

・「渉と出会って20年...」結婚式の友人代表スピーチか??と思うくらいに一人マジ     トーンでメッセージ送る藤ヶ谷くん。

・そして最後、二階堂くんのメッセージ。「もっと活躍してください。生まれてきてくれてありがとう。」

生まれてきてくれてありがとう...って.....こんな言葉を聞いて泣かないオタクはいるのだろうか??

7人が互いに簡単には会えない、この辛い状況だからこその、私が初めて聞いた横尾さんへ向けた6人の真剣で優しいメッセージだった。

 

そして動画の最後は誕生日を迎えた横尾さん本人からのメッセージだった。

横尾さんは薄いベージュの衣装を着て、コロナ下でなかなか美容室に行けなくて伸びた髪をゆるくカールさせていた。久しぶりに見る横尾さんは穏やかで優しい顔をしていた。

横尾さんは34歳の抱負を聞かれて、「34歳は無理せず、自由に生きていきます!」と照れ隠しをするように宣言した。そして、少しはにかみながら、最後にファンへのメッセージとして「どうか、横尾渉に北山と二階堂のHappyBirthdayを唄ってやってください。」と言った。 あぁこの人が好きだなぁと思った。

アイドルだけど、主人公でいることに慣れていない不器用な横尾渉というアイドルが心底好きだなぁと思った。

そして横尾さんに、キスマイに早く会いたいなぁと思ったら、そこでまた、泣けてきた。

 

これが1年前、私が推しの誕生日で号泣した本当の話です。

その1年後の今もコロナで色々な事が制限されていることは変わらないけれど、2021年の5月16日は横尾渉さん35歳の誕生日を配信ライブでみんなで祝うことができます。こんなに嬉しいことはありません。

横尾さん、35歳の誕生日おめでとうございます。これからも応援しています。